銀座の夜 幻の電車
先日、若かりし円生師匠の「三十石」について書きましたが、実は、もう一本、印象に残った録音テープが。
豊竹山城少掾の義太夫「太平記忠臣講釈」、昭和二十六年の録音。山城少掾といえば、昭和の大名人。語りは素晴らしく、耳の幸福をたっぷり味わったわけですが、印象に残ったのは、本筋とは関係ない部分。
このテープ、収録場所が新橋の「金田中」。新橋演舞場の向かいに今も鎮座する高級料亭ですが、その座敷で催された上演会の模様を収録したらしい。語りの間を縫うように、何やら「ゴトンゴトン」という低音が聴こえてくる。電車の音です。座敷での口演ゆえ、マイクが屋外の雑音を拾っているわけなんですが、その中に、はっきりと電車の走行音が入っているんです。
この電車、何モノ?
昭和二十六年なので、当然、都電です。そう思ったものの、実は金田中の位置する銀座7丁目界隈には、それらしき路線がない。当時、金田中から最も近い都電といえば、銀座四丁目の交差点から歌舞伎座前を通り、築地へと向かう路線。今の晴海通りを走るルートです。しかし、この間、三百メートルは離れている。ところが録音を聴くと、座敷のすぐ脇を電車は頻繁に往来している。そんな感じの「明瞭な音」が記録されているんです。ということは、他にも路線があったのか? 手元にある都電の路線図(昭和二十年版)を調べてみたものの、それらしきルートは見当たらず。(しかし、なぜこんなモノを持っている? 自分)都電なのか、別の電車か?それとも、まさか、この世の音ではない…とか。
気になって仕方ないので、都電関係の書籍や資料を渉猟する毎日。久々に「鉄分」上昇中です。