スルメ日記

ライターのユッキィ吉田が「ゆるい日常」を綴っております。

ピア・プロダクション


都内で読書会。


課題図書は、Web2.0以降のワークスタイル新潮流を考察した話題の理論書『ウィキノミクス』(日経BP社)。これを総勢160名で読み、考え、論じようというのだから、エキサイティングな集まりにならないワケがない。このところ沈下気味だった当方の脳味噌が、一気に活気づく。


しかし、今日、もっとも勉強になったのは、会の進行役をつとめたTさんの姿である。


Tさん。男性。某組織に務める49歳。この世代のご多分にもれず、休日出勤も常態の超お忙しい管理職である。にもかかわらず、160名をまとめる進行役を買って出てくれた。まったくのボランティアである。しかし、Tさん、一度任務を引き受けたからには、誠を尽くすひと。その全力疾走ぶりは脱帽ものだった。私は、Tさんのサポートとして、読書会後の宴会の会計係を担当したのだが、その用意周到ぶりには、感服させられた。


Tさんが用意していたもの(抜粋)


・手製の領収書(人数分プラスα)
・おつり(しわのない1000円札 50枚)
・お札をまとめるための大型クリップ
・会計作業の要点をまとめたレジュメ(内容は簡潔、笑える箇所もちゃんとある)
・宴会場までのルートマップ(順路は赤でマーキング済)


私ときたら、会計だから、電卓とクリップボードぐらい持参すればいいか。そんな手ぬるさ。まったくもって完敗である。


夕方5時半。宴会が始まると、Tさんは、キャリーバッグから「あるもの」を取り出した。なんと、拡声器。60人もの男女がひしめく空間をまとめ、仕切っていくには、どう考えても、肉声では無理。街の居酒屋なので、マイクの準備などもない。それを見越して、Tさんは「小型の拡声器」をわざわざ持参していたのである。聞けば、地元の消防団から借用したものだとか。


見事なまでの計算能力。150%の予測手腕。


この拡声器のおかげで、ゲストのスピーチも、酒席での質疑応答も、読書会本体では聞けなかったコアな話も、なんとか60名の耳に届けることができた。


ウィキノミクス」では、多人数が協力し合い、ネット上でソフトを創ることを「ピア・プロダクション」と呼んでいる。Tさんと、私を含めたサポート・メンバーは年齢も職業も居住地もまったくバラバラ。メールを通じて、何度か打ち合わせたのみ。顔を合わせたのは、本日、読書会の会場にて、である。しかも、始まる1時間半前に、「最終確認」という形で、簡単なミーティングをおこなっただけだ。なのに、Tさんという逸材が、芯にいてくれたおかげで、無事に読書会も宴会を終えることができた。


これって、ピア・プロダクションだよね。ダン・タブスコットさん。


ひとなのだ。ネットワークや、システムや、技術の進歩はありがたいけれど、結局は人間なのだ。この、動かしがたい、ほとんど根源的なセオリーを、私は夜の早稲田で確信するしかなかった。


Tさん、本当におつかれさまでした。