スルメ日記

ライターのユッキィ吉田が「ゆるい日常」を綴っております。

ルーツは同じだけど

bluesnake2007-11-26



先日の文楽で、驚いたことがあった。ええええっ!!というほどの衝撃。それは「源平布引滝」で起こった。


「源平」は、平家物語をベースにした時代物。斉藤実盛が活躍する「三段目」が有名で、歌舞伎・文楽とも人気の演目になっている。その後段にあたる「松波琵琶の段」というのを初めて観たんですが……文楽、恐るべし。


三味線から「琵琶の音」が聞こえたんです。弾いているのは、どう見ても、ふつうの太棹三味線。なのに、音色は、琵琶そのもの。


主役の検校が、拷問される娘を前に演奏を強要されるという、緊張感あふれる場面。ここで人形が小道具の琵琶を弾く。すると重々しい音が場内に響きわたる。ははーん、舞台裏で誰か琵琶を演奏してるのね、とのんきに聴いていた私。が……どうも音の出所が違う。よーく耳をすますと、そこは舞台上手の文楽廻し。太夫の隣に座ってる三味線さんじゃないか!ウソ、まさか、三味線が?


そういえば、さっき、糸を操作していたような……でも、舞台に目を向けていた私。よくわからない。いったい、どうなってるの?


あとで知りました。


三味線の駒を、途中で「金属製」に替えて演奏したのだそうです。調べてみると、この工夫、初世・鶴澤道八の創案。道八師は、「釣女」の作曲も手がけた名手だということを知り、深くうなづく。


しかし、同じ絹糸を張った弦楽器とはいえ、琵琶と三味線は素材も構造も違う。なのに「技術」によって、そっくりの音色を出せることに、ただただ唖然。


以前、浪曲国本武春のライブで、バンジョー風の音を出す三味線を聴いたことある。棹にギターのカポタストを付け、調子を変えるという工夫。アイデアとテクニックには唸ったけれど、音はあくまでも三味線のそれであった。あ、雰囲気でてるね、という範疇。だが文楽の場合は、まったく「琵琶そのもの」。超絶技巧です。三味線という楽器は、かくも変化自在の優れものなのか、と今更ながらシャッポを脱いだ次第。


文楽の三味線さんは、こういう見せ場をさらりとこなす。いえいえ、単なる日々のお勤めですから、という感じなんですね。その控えめ感が、なんといいますか、憎いばかりのプロ気質。だから、萌えます。