スルメ日記

ライターのユッキィ吉田が「ゆるい日常」を綴っております。

身体の底力

bluesnake2008-10-04



行ってまいりました。OSK日本歌劇団の武生公演、初日。よかった。いろんな意味で、春の松竹座より夏の南座より、私は感銘を受けた。ガツンとやられたって感じです。


レポートを書く前に、簡単に公演のあらましを。


福井県・武生(合併して越前市)で毎年秋に「たけふ菊人形」というイベントが開かれておりまして、昭和二十七年開始というから、かなり伝統のあるお祭り。その一環として、当地でOSKが一ヶ月のレビュー公演を行っている。昭和四十年代には東京の松竹歌劇団(SKD)が招聘されたりもしたそうだが、昭和五十五年からは、OSKの秋の公演として地元に定着しているという、そんな舞台。……なんて、知ったように書いてますが、もちろん今回にわか勉強したわけで。しかし、いくら自治体イベントの協賛とはいえ、地方都市で一ヶ月もの公演(正確には三十七日間)を打つこと自体、すごいと思う。物理的にも肉体的にも。


今年は源氏物語千年紀ということもあって、演目は源氏モノ。

  • 第二部は、洋物「カレードスコープ」


源氏モノは、夏の南座でシュールな「宇治十帖」を観てしまったので、正直、不安半分だったんですが、まったくの杞憂。源氏物語のエッセンスをうまくチョイスして、完成度の高いレビューになっておりました。なんといっても光源氏を演じた高世麻央が、美しい。ノーブルな顔立ちの人なので平安装束の似合うことといったら。見とれました。


優美な舞いで始まり、コミカルなシーンあり、源氏と紫の上とのロマンティックなシーンと緩急が絶妙。途中、洋舞も登場するんですが、うまい具合に溶け込んで、違和感なし。ご当地の民謡を盛り込んで、ラストはイキで威勢のいい総踊り。正味四十分のレビューなんだけど、とても見応えがあった。ストーリーの取捨選択が実にうまい。


ここで休憩を取るのかと思いきや、そのまま幕前トークへ。男役娘役コンビで、客席とのトークが始まる。OSKって幕間にこういうトークをはさむことが多いようですが、私は、これ結構好きだったりする。客席の空気がふわりとやわらぐし、何より親近感がわくしね。
トーク終わりで、この二人が舞台へ戻り、自然な感じで第二部への冒頭へつながる構成。空気を断ち切らない工夫。些細なことだけど、うまいなあと感じる。


第二部は、カレードスコープというタイトル通り、ひとりの少女が万華鏡で覗く世界のスケッチという構成。これもステージングがうまくて堪能しました。


特筆すべきは、第三景。「あきんど」という場面なんですが、いやー、笑った。爆笑しました。舞台は昭和初期あたりの大阪の呉服商「菊屋」。しぶちんの番頭さんにこき使われる丁稚どんたちの悲喜こもごも。丁稚に扮した桐生麻耶と牧名ことりが、チャーミングで、もう困ってしまうほど可愛いのよ。たわいのないケンカ騒動のスケッチなんだけど、二人のコメディセンスが光っていて、おもしろい。上方落語的な洒脱さもナイス。


その後は、一転、エネルギッシュなラテン。OSKお得意のスパニッシュ。私は、今年の「春のおどり」のスパニッシュ群舞を観てOSKのファンになった人間なので、まさに、待ってましたの場面! 今回は十人程度のステージングだったけれど、それでも見入りましたね。キレがあって、スピーディでカッコイイ。わずか十人で、この迫力って、本当に凄いことだと思う。ここで、OSKの娘役のたくましさにも唸る。可憐な淑女も、妖艶なファムファタールも、情熱のラテンダンサーも、優美な平安の姫君も、変化自在に見せてくれるのが、OSK娘役。縛られない、というか、フリーダムな感じが好きだなあ。


そのまま、ラインダンス、デュエットダンス(表情が美しい)、フィナーレへと展開。ラストは、カラっと陽気なラテンで締め。和物+洋物レビューで七十五分。ほどの良い長さで、中だるみもなし。


これで、観劇料が600円!
ちょっと信じられない。
コストパフォーマンス、すばらし過ぎ。


いままで私がOSKの公演を観たのは、松竹座、南座と比較的大きな劇場だったせいもあるのだが、今回は発見することが多かった。今回の劇場は、キャパ五百人という緊密な空間。メンテナンスはされているものの、かなり年季の入ったホールだった。セリや盆といった舞台機構も豪華なセットもなく、最低限の吊り道具と照明のみ。そういう簡素な空間だと、当然、技芸の未熟さを隠すことができなくなる。ごまかしがきかなくなる。シンプルな舞台ゆえに、かえってOSKの身体能力の高さが立ち上がってきたんですね。改めてスゴいな、と唸りました。


他にも、いろんなことを発見し、考えさせられもした。個人的に収穫の多い公演だったのですが、それは、また稿を改めて。