スルメ日記

ライターのユッキィ吉田が「ゆるい日常」を綴っております。

落語国の若き住人

bluesnake2008-10-25



桂吉弥独演会(名古屋・中電ホール)へ行ってきた。


大河ドラマ新撰組!』、朝ドラ『ちりとてちん』で一躍人気者になった人だけに、キャパ440人の中電ホールがあっさりと完売御礼。このところ名古屋の落語会は、どこも盛況だ。今日も新しいお客さんが多い様子。


吉弥師を聴くのは、本当に久しぶり(6、7年ぶりか?)。とてつもなく上手くなっているのに驚きました。もともと基礎のしっかりした噺家だけど、そこに華と愛嬌が加わり、貫禄も十分。なんだかベテランの風格さえ漂わせている。


演目は「ふぐ鍋」「高津の富」「風邪うどん」という生粋の上方ネタ三席。トリが「風邪うどん」ってセレクトが、挑戦的でいい。独演会の締めといえば「抜け雀」とか「百年目」とか、こってり系の人情噺で感動を誘うのが、ある種の定石だけど、あえて軽めの噺を持ってきた吉弥師。俺はコレで勝負する。そんな静かなる気迫。


「風邪うどん」は、真冬の路地を行く夜鳴きうどん屋が主人公。酔っぱらいにからまれたり、怪しげな大量注文に右往左往したり、ほとんど情景描写だけで成り立っているネタだ。それだけに、難易度も相当なものだと思う。吉弥師は、特段アレンジしたり、自己流のくすぐりを入れず、ほとんど教科書通りの運びかた。なのに、なのに、思い切りひき込まれた。落語を聴いて、久々に「高座いっぱい」に風景が見えたのですよ。


感服したのは、この人、昔の言葉をつかって、まったく「借りもの感」がないこと。三十六歳(落語界では若手)でありながら「おこもさん」とか「富くじ」といった古いフレーズを口にして、何ら違和感がない。あたかも、その時代を生きる生活者のように自然に繰り出しているんですね。だからといって、年寄りじみているわけでもない。かなり現代的なキャラクター。


落語国の言葉を、この年齢で、これほど自在に操れるとは。さすが吉朝門下。恐るべし米朝一門。とにかく、今の桂吉弥からは目を離さない方が良さそうです。