スルメ日記

ライターのユッキィ吉田が「ゆるい日常」を綴っております。

楽で聴く喬太郎(1)

bluesnake2008-12-21



今年最後の落語会へ行く。


喬太郎ラクゴ新世界」その10


名古屋・中村区の和食処「楽」で開かれてきたこの会も、本日が10回目。来月末で「楽」が閉店してしまうこともあり、会場は超満員。師走だというのに冷房が要るほどの熱気。なかには東京から駆け付けたファンの方もいらしたようだ。記念の会ということで、主催者の挨拶状が配られた。

喬太郎ラクゴの新世界」は、柳家喬太郎師匠の落語を、この名古屋でもっと生で観たい、そしてより多くの方に観てもらいたい、という思いを持った仲間が集まり、「倶楽部しゃちほこっ」を結成して、2004年10月17日に第1回目が開催されました。当時は、名古屋での落語会は徐々に増えてきてはおりましたが、今に比べるとまだまだ少なかったと思います。現在では、東海地方各地で、本当にいろいろな師匠の落語を生で観る機会が増え、とてもうれしい限りです。(後略)


私は第2回から観てきたけれど、これほど内容、環境ともに充実した落語会は、他にないかもしれない。「座敷」で「マイクなし」で「三席」も聴けて、料金は3000円。しかも、今や東西落語界きっての売れっこと称しても過言ではない柳家喬太郎の独演会なのだから。すべては、スタッフのみなさんの奮闘努力と、「楽」のご主人の落語愛あってのこと。ただ、ひたすら感謝。


喬太郎師も、高座に登場するや「もったいないですよねえ」と口火を切る。「楽」の閉店を、かなり残念がっている様子だ。「和室に舞台があるなんて場所は他にもたくさんありますよ。でもね、落語のために座敷を作ってしまった……そんな店は、ないです!」と。いつの日か、再開することがあれば、また、この場所で一から演りたい、そんな願いを込めて……とはじめたのが「道灌」。東京の落語家が入門して最初に習う噺である。ニクいまでの計算だけど、でも、胸をうつ。


はじめて聴く喬太郎の「道灌」は直球ストレート。楷書の芸。古典落語というものは、うまい人の手にかかれば、何も変えず、何も足さずとも存分に面白いことを、改めて実感。


二席目は、季節ネタ「カマ手本忠臣蔵


あぁ私、この噺、好きなんですよ。縁あってか、ネタおろしを聴いているし。忠臣蔵の「新解釈」として秀逸だと思っているんですが、どうもねえ、文章にしてしまうと持ち味が失われてしまうような気がして……だから詳しくは書きませんが、タイトルからお察しの通り「そーいう世界」です。松の廊下の刃傷沙汰は「愛憎のもつれ」が原因だったという設定。愛に苦しむ二人は、浅野内匠頭吉良上野介。浅野が攻めで、吉良が受けだ(笑)


初演から、かなり深化しておりました。「愛」と「忠義」の葛藤というテーマがくっきりと出た反面、倒錯的な色合いも濃密になって、独特の世界に……なんて書くとビミョーな空気が漂ってしまいますが、ホントにいい噺です。喬太郎師の演技力が冴えわたる一席です。最後は胸にしみます。ぜひ生の高座で聴いてください、としか書けないですわ。


ここまでで、はやくも1時間半が経過。(「カマ手本」も結構な大ネタなので)締めは、さらっと滑稽噺でももってくるのか、と思っておりましたら、いやー、衝撃の一席でした。


(2)へ続きます。