スルメ日記

ライターのユッキィ吉田が「ゆるい日常」を綴っております。

初エリザベート

bluesnake2009-05-30



さて、宝塚月組エリザベート』の感想。


エリザベート』は、オーストリア帝国の皇后・エリザベートの生涯を描いたミュージカル。日本では宝塚が1996年に上演し、大ヒット。以来、人気演目のひとつになり、今回が7度目の上演。


観劇前『エリザベート』に関して私が知っていたのは、この程度だった。そんな状態で臨んだ初体験。舞台の感想を一言でいうと……


えええ、こんなに明るいの?


いや、意外でしたよ。だって、主役は黄泉の帝王だというし、エリザベートは史実でも数々の悲劇に見舞われた王妃だし、最期は暗殺されるし、しかもオペラの聖地ウィーン生まれのミュージカル。重厚で退廃的な作品を想像していたんですが、いやいや、違っておりました。展開はスピーディ、音楽はノリが良くて、黄泉の帝王=トート閣下(瀬奈じゅん)はロック界のカリスマスターという趣き。「死」なのにエネルギッシュ。黄泉の世界より、陽光の下へ連れて行ってくれそうな、生気あふれる青年ヒーローに見える。そんな予想外のテイストに、少し驚きつつの観劇。


瀬奈さん、前回公演『夢の浮橋』『Apasionado!!』もそうだったけど、男役として、いま、咲き誇る大輪の花という状態。強烈なファンじゃない私でさえも、あふれんばかりのオーラにクラクラ。正直、舞台を観るよりも、瀬奈トートに釘付けの3時間だった。


対するエリザベート。これは難役、その一言。私の勝手な想像では、エリザベート=可憐なヒロインだったのだけど、彼女は「闘士」なんですね。封建制と戦い、因習を砕き、自由を欲して、もがき苦しんだ闘士。満身創痍になっても戦うことを止めない、ある種の狂気も併せ持つ女性。その上、美しく、圧倒的な存在感も放つ。そんなヒロインを演じるのは相当な力量が必要なわけで、こりゃ誰が演じても大変だろうな、というのが実感。


今回は、宙組から若手男役・凪七瑠海が特別出演。感想はというと……うーん、どうだろう、台本についていくのに精一杯という印象かな。いや、彼女のキャリアからすると大健闘だと思う。でも、今回は「異例の抜擢」だ。外野は要らぬ期待をしてしまうわけで。


そして、皇帝フランツ役のキリヤン。いやー、うまい。改めて、この人の演技力の高さを実感しましたね。(だから、エリザベートを演じてほしかった……今さらながらの一言)。エリザベートを見初めた瞬間の恋する王子ぶり。心が離れていく妻を見やる寂しげな夫。急進的思想に傾く息子に苦慮する父親。そして、年老いた妻へ、もう一度やり直そうと告げる哀切な老紳士。20代から60代までの男性を演じ分け、どのシーンもムリがない。自然。演技のお手本のようだった。


しかも、フランツの歌は低音のバラードが多く、難曲ぞろいなんですね。演奏も最低限の楽器のみ、という状態で、歌い手の力量に負うところが、すごく大きい。技術的には、とんでもなく高レベルだなぁ、と嘆息。キリヤンは、いつもの「伸びやかな声」と「包み込むようなスケール感」で、難なく(……に見えるけど、実は大変でしょう)歌いこなしていた。歌に情感がある。何よりそこが良い。


帰宅後、YouTubeでウィーン版『エリザベート』のオープニングを発見。本家はワイルドな感じ。随分と印象が違う。エリザベートも骨太な女性。


ううむ、これもナマで観てみたい。