スルメ日記

ライターのユッキィ吉田が「ゆるい日常」を綴っております。

碩学が語るOSK

先月のことだが、10月1日 「月刊島民ナカノシマ大学」のキックオフセミナーに参加した。「21世紀懐徳堂プロジェクト」と名付けられた、この市民大学、なにやら面白いことが始まりそうな気配を感じ参加してみたのである。


懐徳堂」とは、江戸時代から明治の初めまで大阪にあった「民間の学問所」。緒方洪庵で知られる「適塾」も、この懐徳堂の流れを汲んでいるそうだ。官主導ではなく、あくまでも民衆のチカラが牽引してきた大阪の良き文化。その精神を21世紀に受け継ごうというプロジェクトである。


開幕を記念して開かれたキックオフセミナーには、内田樹鷲田清一の両先生が論客として登壇。両名とも何冊か著作は読んでいるものの、生のトークを聞くのは初めてだ。かたやフランス現代思想の雄、かたや大阪大学総長。どんなイカメシイ話が展開されるのか、一抹の不安が胸に抱き夜の中之島へ向かった私だが、もう完全に杞憂。いやー、おふたりともフレンドリーで面白いオジサマたちでした。鷲田先生にいたっては、ほとんど商店街のオッチャンのような気さくなキャラクター。一気にファンになる私。


90分余りのトークは、冒頭こそ平松市長の司会でフォーマルな雰囲気が醸し出されたが、内田先生にバトンが渡るや、もう野放し状態(いい意味で)。一寸先の流れが読めない状態でハラハラしたが、内容は抜群に面白かった。(内田先生も愛嬌たっぷりのキュートな方だった)


そんな中、鷲田先生の発言に、おぉ、という部分があったのである。「大阪文化の強さ」というテーマからの流れで。


「大阪は、芸能やアートの集団が強いんですよ」
「叩かれてもつぶされそうになっても、生き延びていく」
「自分たちで知恵を絞るんですよ」


もしやこれ、OSKのことを指しているのか? 身を乗り出しかけたところ、先生はこう続けた。「ダンスカンパニーやレビューでも顕著ですよ。つぶされそうになっても、知恵を絞って復活する、がんばっている、そこがいい」


鷲田先生は「OSK」という固有名詞こそ口にはしなかったものの、この発言が現在のOSKを指すことは、ほぼ間違いない。(前後の文脈から、そう確信)。「OSK=誇るべき大阪文化」というニュアンスで、この部分、かなり強調していた。まるで身内の自慢をするかのように、うれしそうな表情で語っておられた。


「底力がすごいですよ、大阪の芸能は」


鷲田先生といえば専門は哲学だが、芸術方面、とくに舞台関係への造詣の深い方だ。著作の中でも舞台好きな一面を見せているし、維新派の公演では何度かアフタートークにも参加している。(そういえば、いま大阪大学の総合学術博物館では、維新派の展覧会を開催している)。ううむ、鷲田先生、レビューと大阪文化を包括するような本を出してくれないだろうか。身体論を絡めたレビュー考察なんてのも読んでみたいですね。


会場で配られたリーフレットによると、ナカノシマ大学は「自分たちが暮らす地域の発展のために、自ら学びの場を作り、自ら学び、自らの地域に還元するという懐徳堂の精神をふたたびこの地に甦らせることで、市民の自発性を涵養し、ひいては「文化立都」としての大阪の再興につなげていくこと」を、その大きな目的としているそうだ。鷲田先生も「芸能・アート方面」に力を注ぎたい、と言われていた。


第2回の講義は、作家の久坂部羊さんによる手塚治虫論。第3回は、上方講談の旭堂南海さん、浪曲師の春野恵子さんによる上方古典芸能の講義が予定されている。そのうち大阪五花街とレビュー文化の変遷なんてタイトルでOSK関係者がどなたかが講義してくれないだろうか。(誰が適任だろう? 北林先生?)ちなみに、この大学の講義録は出版化が予定されているらしいです。