スルメ日記

ライターのユッキィ吉田が「ゆるい日常」を綴っております。

クマチカさん、スミカズさん


連休中、二つの展覧会へ行った。
ひとつは熊田千佳慕展」(伊丹市立美術館)。「日本のファーブル」と呼ばれ、昨年99歳で大往生を遂げるまで現役として活躍した、通称「クマチカさん」

長命な画家といえば、105歳まで生きた小倉遊亀や94歳で亡くなる直前まで絵筆をとった三岸節子が思い出されるが(女性が多いなあ)クマチカさんの場合は、わけが違う。なにせ手がけるのは昆虫や植物を対象とする「細密画」なのだから。絵本などの複写物でも、その細かさは見てとれるが、間近で現物を見ると、あらためて圧倒されるものがあった。

驚いたことに、クマチカさんは、終生メガネを使わなかったそうだ。虫を観察するときは、いつも肉眼。絵を描くときも老眼鏡をかけなかったという。気の遠くなるほど細かい絵を描く最中は、グッと歯を食いしばって集中するため、ひと仕事終わると、歯茎が腫れ上がって、寝込むのが通例だったとか。絵も良かったのだが、人間が老眼を克服(共存?)できることに、ひたすら驚いた。


もうひとつは、「宇崎純一(スミカズ)展」(大阪市立中央図書館)。宇崎純一は、大正から昭和初期に大阪で活躍した画家。その画風から「関西の夢二」と称されることが多いのだが、竹久夢二が全国的な知名度を得たのに比べ、スミカズさんの業績はほとんど知られていない。最近になって評価の機運が高まり、没後半世紀を経て、ようやく展覧会の開催にこぎつけたそうだ。(私も今回の展覧会で初めて知った人である)

スミカズさんの絵は、夢二よりもポップでモダン。シンプルな筆致で描かれた大正時代の、暢気で艶やかな大阪の街が、なんとも愛らしい。一気にファンになってしまう。美術史的な評価は、これからのようだが、スミカズ作品は考現学的には、垂涎もの。

スミカズさんは、大正末期、松竹座の向かいにあった喫茶店「ライオン」に常駐していた(事務所を構えていたとの説もある)そうで、当時の人気雑誌『道頓堀』や『大大阪』の表紙絵を描いていた。ということは、大正12年に松竹座で第1回公演を行った松竹楽劇部の舞台を観ている可能性もある。いや、美人画を得意とした人だから、楽劇部のスターさんたちをモデルにした作品を残している可能性も高いのではないか?

スミカズさんの画業は、まだ解明が始まったばかり、という段階なので、今後、発掘される作品も少なくないと思う。ちょっと注目しておきたい人だ。