スルメ日記

ライターのユッキィ吉田が「ゆるい日常」を綴っております。

映画「パラサイト 半地下の家族」

「パラサイト 半地下の家族」を観てきました。アカデミー賞を受賞した直後なので、映画館は大入り満員。

 

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韓国の格差社会と就職難を痛烈に描いた秀作でした。シビアなテーマですが、それをブラックコメディに仕立てたポン・ジュノ監督の手腕が、まずはすばらしい。上演中何度もクスッと笑わせる場面があるんですが、最後までまったく展開が読めませんでした。

 

父親役のソン・ガンホはいうまでもなく、長男を演じたチェ・ウシクという俳優が繊細な役を見事に演じていました。

 

以下、結末にふれております。

 

物語は中盤から意外な展開を見せます。

それは「半地下」どころか、さらに「下」があったという事実。

 

家族4人が働くことになった高台の豪邸には、持ち主さえ知らない「地下室」があり、そこで暮らしている男がいたのです。

彼は家政婦として働いていた女性の夫。事件に巻き込まれたのか、それとも住む家がないのか、この辺りは明瞭には描かれていませんが、何年も地下室に住んでおり、一歩も外に出ていない。そのため、精神的に不安定になっており、悲劇的な結末を引き起こしてしまう。

 

余談ながら、主人家族の目を盗んで、妻がどうやって食べ物を持っていっていたか不思議なんですが。

 

この映画のカギだと感じたのが「臭い」。

 

豪邸の息子が、何気なく「4人とも同じ臭いがする」と言うシーンがあります。そして豪邸の主人が、ソン・ガンホがいることを知らずに放つセリフが、一つのきっかけになります。

 

「あの運転手、いい人だけど、いつも干した大根みたいな臭いがする」

 

この辺りから、ソン・ガンホは雇い主に対して複雑な感情を抱き始める。そして長男の誕生パーティーという華やかな場所に突如、包丁を持って現れる「地下室の男」。彼は長男に襲いかかります。それを制した主人が、地下室の男の臭いを嗅いで、思わず鼻をつまむ。その様子を見たソン・ガンホは、猛然と包丁を手に取り、主人を刺してしまう。

 

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思えば昔はいろいろな臭い、匂いが漂っていました。田舎に行けば、便所の臭気やドブの汚泥臭は当たり前。私自身もそんな環境で育ちました。

 

しかし、時代とともに「無臭」が「善」になっていく。

 

無臭時代に生きる人間への強烈な通告が、この映画には込められていたと感じました。

 

超豪邸に暮らす成功者と、半地下の家に住まざるを得ない無職の家族。社会的には前者が幸福でしょうが、私は半地下の4人の方が人間らしく、愛らしいと思えました。いつか長男が豪邸を買って、父親と対面できる日を迎えてほしいと願っています。

 

格差といえば、黒澤明の「天国と地獄」を思い出します。丘の上に住む社長の三船敏郎と低地に暮らす貧しい研修医・山崎努の攻防が、高度成長期の悲劇を見事にあぶり出した傑作でした。

 

「パラサイト」は、いま実際に起こっている現実。日本でも貧困世帯が増えており、韓国を対岸の火事と思えない状態。そんな意味で、手放しに拍手はできない、いろいろ考えさせられる映画でもありました。