スルメ日記

ライターのユッキィ吉田が「ゆるい日常」を綴っております。

『新宿二丁目』

新宿二丁目』(伏見憲明著:新潮新書:2019年)を読みました。

 

感想はたった一言。

 

面白かった!

 

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新宿二丁目という世界でも類を見ないゲイタウン(正確にはLGBTの町)がいつ、どうやって成立したのかを、克明に追ったルポルタージュです。

200冊近くの文献を調べ、様々な関係者に取材をし、歴史を紐解きながら、この街の素顔に迫っていく手法が圧巻でした。

江戸時代に甲州街道の宿場町が置かれた新宿に遊郭が生まれ、それが多方面へと拡大。明治、大正、昭和を経て、今に至る変遷が克明に綴られています。

 

江戸川乱歩三島由紀夫美輪明宏など蒼々たる御仁が、「二丁目」を愛し、巣立っていく様子も随所に出てきます。

 

驚いたのは、女優の乙羽信子さんが、二丁目でバーを開いていた事実。宝塚歌劇のヒロインが、なぜ二丁目に店を構えたのか。著者は謎を解き明かすため、取材を重ねますが、ついぞ理由はわからず。恐らく「当時、愛人であった新藤兼人監督の映画製作の資金づくりのためだったとではないか」と推察するに留まっています。

 

とにもかくにも、日本の芸能界を語る上で避けることができない場所。それが「二丁目」なのかもしれません。

 

著者の伏見憲明さんは、『魔女の息子』という私小説で第40回の文藝賞を受賞している作家です。私も同書を読みましたが、年老いて恋愛に奔走する母親を、息子の視点で、淡々と描いたストーリーが面白く、『新宿二丁目』も手に取った次第です。

 

かつては同性愛者の出会いの場(ハッテン場)として機能していた二丁目。しかし、ネット時代になり、出会いの場もオンライン化してしまい、最近は普通の観光バーが多くなっているそうです。

 

風俗論というより、街場論と言った方がふさわしい良書でした。新宿二丁目を書いた著作は他に多数ありますが、この本が決定版ではないかと思います。