スルメ日記

ライターのユッキィ吉田が「ゆるい日常」を綴っております。

一線を画すノウハウ

宝塚月組公演(中日劇場)の感想を書かねばなぁ、と思うのだが、どうも気が乗らない。観劇から一週間たつのに、いまだに不満がくすぶっている。だからというわけでもないが、前向きに、別の話題を。


中日劇場では、友人Tさんと観劇した。終演後、飲みに行った店で、もっぱら話題になったのは、極楽歌劇団のことだった。昨年の秋に東京で偶然、極楽歌劇団の『落語の国のプリンズ 与太郎的アホのススメ』を観て感激したTさんに、その感想をあらためて訊いてみた。


なんといっても「音楽の使い方がうまい」とのこと。ミュージカルなので歌唱シーンが随所にあるわけだが、歌の挿入に「無理がない」という。私は、北林作品はOSKで上演されたものしか観ていないのだが、たしかに昨春の「桜彦 翔る」でも歌が効果的に使われていた。「ここに音楽があるといいな」という箇所に、するりと歌が入ってきて、無駄がなかったように思う。


ヘタなミュージカルだと、ストーリーを断ち切るように歌や踊りが挿入されることがある。「はい、ここで○○さんの芸をお楽しみください」的なシーンだ。そういうものが北林作品には、ない。「不自然」がないのである。もちろん、OSKはスターシステムの上に成り立つ劇団なので、トップスターが歌い踊る場面が見どころのひとつだ。が、そういう場面とて、物語に溶け込んでいるのである。観客の情緒を断ち切ることがない。だから、気持ちよく客席に座っていられるのだ。


名古屋から帰宅して、精華小劇場のニュース・レター冬号を見たら、『落語の国のプリンス』の感想が載っていた。寄稿者は、元NHKのドラマ演出家である大森青児氏。大森氏も、Tさんと同様の感想をお持ちのようだ。少し引用させていただく。

(前略)こういった私の志向、また、この劇団との経緯は抜きにしても、この劇団の芝居は好きだ。面白い。まずは大阪という風土に取材しながら、作品の捉え方が大阪的ではない。全国区、いやワールドワイドでも通用するスケール感がある。次に音楽の使い方、踊りの使い方が絶妙である。他のミュージカル劇団と一線を画すノウハウを見いだしている。今回も古典落語という題材に、作・演出の北林独特のアプローチで臨み、観客を魅了した。やはり、この劇団から目が離せない。