スルメ日記

ライターのユッキィ吉田が「ゆるい日常」を綴っております。

鄙の楽しみ

bluesnake2007-12-01



きょうから師走。個人的には本年最後の落語会になるであろう立川談春独演会へ向かう。


数えてみれば、今年5回目の談春。本当は、まだ聴いたことのない、東西数多の若手の会に行きたいのだけれど、いかせん、時間と費用に限りのある身。結局はコスト・パフォーマンスの良好な、ハズレのない演者を選んでしまうのである。守りにはいってるなぁ。12月の晴天を見上げつつ、ちょっと反省してみる週末の午後。


会場は、来年1月、豊川市に合併される御津町のホール。町の主催とあって、2000円と破格の料金。


「鄙の談春」である。


コアなファンが集まる都市部の独演会とは、当然ながら雰囲気がかなり違う。「たまには落語もいいね」と、ほどの良い期待を抱いた、アウェーなお客さんを前にしたときの談春師は、過去の経験から、かなりの打率なのである。談春は初めてのお客さんも多いはず。さぁ、どういう手にでるのか。ヨコシマな思いを胸に、東海道線三河御津駅へ。


独演会。開口一番は、弟子の春太くん。口跡がよく、花のある人だ。こっそり赤丸チェック。


さて、談春師。


地方の敬老会に呼ばれて行ってみたら、1500人のホールに1800人もの大入り。でも、リアクションが薄い。拍手もまばら。出来が悪かったのか。終演後、不安になって主催者に尋ねたところ「いえ、みんな手を叩く体力もないんですわ」。そんな「キミマロ風の小噺」で少しずつ会場をあたためる。こういう手腕が見られるのも「鄙の談春」の醍醐味だろう。


落語家には三つの苦手がある。このフレーズで始まる、寄席では超がつくほど定番の小噺「三坊」をさらりと、でも、流すことなく振って「味噌蔵」へ。


ケチの噺である。余分な支出が増えるから、嫁をもらうなんてとんでもない。ましてや子供でもできたら、どうすればいいのだ。驚異的なケチん坊主人と、それに振り回される人々という、上方生まれの滑稽噺。


思えば、こういう「過剰な人物もの」を次々と自家薬籠中の物にしているのが、いまの談春師だろう。ケチっぷりを戯画化することなく、けろりと演じる。この「けろり」がいい。だから、おかしみも伝わってくる。


御津町のお客さんは、よく笑う。しかも、笑いの勘所がよく、会場の空気がいい具合に和らいでいる。今日はヒットかも。うれしい気分で中入りを過ごし、後半。はたして、当たり、いや……大当たりが待ち受けていたのです。

(つづきます)