スルメ日記

ライターのユッキィ吉田が「ゆるい日常」を綴っております。

火花の演技

bluesnake2008-03-13


友人たちと宝塚へ一泊旅行。はじめてナマで宝塚歌劇を観る。去年の夏の宣言からは、ちょっと遅れたけれど、念願かなっての初体験。いやぁ面白い。予想をはるかに超えた感動でした。


観たのは、宙組の『黎明の風』というミュージカル。吉田茂の側近として活躍した白洲次郎を主役に、敗戦から独立へといたる激動の昭和史を描いた作品。宝塚が、こんな骨太な芝居を上演することに、まずはビックリしたのだが、登場するモチーフもまた渋い。宮中反戦グループ、天皇制、憲法制定、沖縄復帰問題など、デリケートな素材に、かなり大胆に斬り込んでいる。


見どころは、白洲次郎マッカーサーの葛藤と交情。これをトップの男役二人が、正攻法の演技で見せているんですね。とりわけ、マッカーサーを演じた大和悠河が出色。抑えた芝居で、連合国軍最高司令官の風格を全身に滲ませているのですよ。驚きました。奥が深いぞ、タカラヅカ


クライマックスは、朝鮮戦争の勃発。日本に再軍備を迫らんとするマッカーサーに、白洲次郎が一世一代の抵抗を見せる場面。まさに、ニッポン男児ここにあり、という見せ場。そこから、マッカーサー解任、サンフランシスコ講和条約、悲願かなっての日本独立へと向かうシークエンスは感動ものだった。主役の轟悠が歌い上げるテーマにのって「本物の吉田茂」が現れるなんてシャレた演出もあって、泣かされました。客席には中高年の男性も多かったのだが、涙する方も少なくなかったようだ。


あとで知ったのですが、この『黎明の風』を演出した石田昌也氏は、宝塚でも異色作を創ることで有名な演出家だそうです。これまでも、つかこうへいの『蒲田行進曲』を翻案した『銀ちゃんの恋』、谷崎潤一郎の『春琴抄』をモチーフにした『殉情』、司馬遼太郎の短編『大坂侍』を舞台化したこともあるそうな。『大坂侍』なんて、アクの強い町人が跋扈する、浪花のド根性物語じゃなかったけ?きれいな宝塚の対局にあるような小説なんですが、いったいどんな舞台だったのかしらん。興味津々。ちなみに、傑作と評判の『銀ちゃんの恋』と『殉情』は、今年の秋、待望の再演が決まっている。ちょっと必見かも。


それにしても、男役ってのは、カッコいい。


もう、この一言に尽きますね。官能を鷲掴みにされる、といいましょうか、ナマで見るとしびれるほどカッコいいです。


写真や映像で見ると、ギョッとするような派手なメイクも、衣装も、しぐさも、演技も、すべては劇場空間において最高の効果をあげるためのものなのだ、ということを改めて実感。


百聞は一見にしかず。舞台は、ナマで観なきゃ意味がない。ナマで観るまでは、語ってはいけない。本当にそうです。