スルメ日記

ライターのユッキィ吉田が「ゆるい日常」を綴っております。

宝塚の紳士

bluesnake2008-03-15



はじめての宝塚では、いろんな発見があった。


宝塚といえば言わずと知れた、乙女の聖域。客席も九割が女性だろうと思いきや、意外と男のお客さんがいるんですね。白洲次郎という題材のせいもあるだろうが、一割は男性客だったように思う。宝塚通の知人によると、ここ数年、男性が、それも熟年世代がじんわりと増えているそうだ。歌劇団も新規層を獲得するため『黎明の風』のような骨太な人間ドラマをラインナップに加えているらしい。


私たちのグループはS席の後方に座っていたのだが、前列に六十代ぐらいのご夫婦がいらした。会話の内容から、二人とも最近、宝塚を見るようになった様子。ご主人が定年を迎え、ようやく夫婦の時間が持てるようになった。それで、奥様が一度見たいと言っていた歌劇を初体験。ふたりしてファンになった、というところだろうか。


開演前、ご主人が白洲次郎マッカーサーのエピソードを奥様に話して聞かせていた。劇中、懐かしのナンバー「蘇州夜曲」が流れたときには、奥様がそっとハンカチを手渡す。そのしぐさが実にさりげなくて、あぁ、こういう夫婦っていいなぁと、しみじみ感じたのである。


ひとりで来ている男性も少なくなかった。数列後方には大学生らしい男の子コンビがいて、楽しげに談笑していた。幕間にロビーを散策すると、パンフレットを眺めつつ、のんびりとタバコを吸う中年紳士が少なくなかった。


客席のあちこちで見かけた男性は、現実にもどれば、過酷な仕事や、ほろ苦い生活も待っているだろう。でも、ひととき、ファンタジーの世界に身を投じて、心身を浄化させる。そういう術を知っている人なのだ。大人だね。かっこいいじゃない。宝塚という「大いなる虚構」を楽しめる男性って、素敵だな。


いまの宝塚歌劇は、芝居もレビューも男役スターを中心に構成されている。娘役は、あくまでも男役のパートナーであって前面に出てくることはないという。百年近い歴史のなかで、試行錯誤を繰り返し、このスタイルが確立したわけだけれど、新参者の勝手な感想を言わせてもらえば、もっと娘役がフィーチャーされてもいいんじゃないだろうか。男性客のためにも。


うーむ、これ、ファンの方には暴論なんだろうな。重々承知しております。


でも、娘役が主人公になる物語が出現してくると、もっとおもしろくなる。いろんな可能性が出てくるんじゃないかしら。男性客が増えつつある客席を見て、そんな予感したことは確か。