神田松之丞の陰
先日、神田松之丞の独演会に行ってきた。定員1300人のホールが即日完売するほどの人気。友人がレアチケットを取ってくれたので、初めて生で聴くことができた。
「源平盛衰記 扇の的」
「万両婿(小間物屋政談)」
「中村仲蔵」
軍紀もの、滑稽もの、大作人情ものとバラエティに富んだ並び。
第一印象としては、とにかくうまい。並みの技量でないのは、すぐにわかった。観客を引きずり込むような迫力がある。三席目の「中村仲蔵」では、客席が水を打ったように静まり返り、幕切れとともに、スタンディングオベーションが起こる。
神田松之丞。
うまいのだが、36歳とは思えない。どこか60、70の老名人を見ているようで、心に引っかかる。
講談は必ずしも若さが必要な芸ではない。しかし、30代ならもっと弾んで良いのに。そんな疑問がくすぶった。
気になったので、後日、図書館で本を借りて読んでみた。
『絶滅危惧職、講談師を生きる』
松之丞の生い立ちから学生時代、講談との出会い、入門、二つ目昇進、現在までを追った聞き書き。この本の中に「答え」とおぼしきエピソードが載っていた。
なるほど、そうだったのか。
つらい幼少期を過ごしたことはわかった。しかし、それが老成の原因かは判断できないが、何らかの影響を与えていることは確かだろう。