スルメ日記

ライターのユッキィ吉田が「ゆるい日常」を綴っております。

上方に絡めとられる


台風4号の帝都通過もなんのその。本日もどっぷりと落語漬け。いやぁ、聴いたね。聴き倒したね。


時事通信ホール


笑福亭風喬「平の陰」
桂雀松「片棒」
古今亭志ん輔「お直し」
林家市楼「青空散髪」
桂米左「本能寺」
桂枝三郎「月宮殿」
桂米二「ろくろ首」
立川談四楼「ぼんぼん唄」


■中央会館


三笑亭夢之助「宗論」
三遊亭楽太郎「猫の皿」
三遊亭好楽「見世物風景」
春風亭昇太「ストレスの海」
林家正蔵「新聞記事」
笑福亭鶴瓶「青木先生」
春風亭小朝「こうもり」
林家木久蔵「彦六伝」
桂歌丸「牡丹燈籠より栗橋宿」



なんと17席。7時間55分。すべて大銀座落語祭なんですが、寄席と違って太神楽や漫談といった箸休めもなく、全員が本寸法の本気モード。一日でこれほど濃い落語体験をしたのは、人生で初めてかもしれない。


実は、中央会館のプログラムには当初、円楽師匠の登壇というスペシャル企画があったのですが、師が体調不良(…楽太郎師いわく「逃げやがった」…)だそうで、急遽、昇太、正蔵鶴瓶、小朝、木久蔵という豪華代演になったという次第。客席は沸きに沸いておりました。


夏の銀座に真冬の吉原・羅生門河岸を描ききった志ん輔「お直し」(強烈!)も、人間国宝桂米朝ゆずりの端正な芝居噺で魅せた米左「本能寺」も、洒脱さにシャッポを脱いだ夢之助「宗論」も、異様な切なさが胸にしみこんだ鶴瓶「青木先生」も、50分という長丁場をまったくトーンダウンすることなく聴かせた歌丸「栗橋宿」もすべて良かったのだが、今日の17席中、ベストワンは桂枝三郎の「月宮殿」、これですね。


枝三郎さん、私は初めてだったんですが、上方にはまだまだ逸材がいる、と思い知らされました。三枝師のお弟子さんだそうで、師匠ゆずりの軽やかさと洒脱さが、まずは抜群。台風のため、急遽、飛行機で東京入りする羽目になった顛末を当意即妙、枕に仕立てるセンスもなかなかのもの。痺れました。些細なエピソードを力まず、媚びず、さらりと語って(ここがポイント)ひたすらおもしろいというのは、とんでもない底力の持ち主なのだろう。


ネタに選んだ「月宮殿」これは、いかにも上方らしい滑稽噺。ある男が、ひょんなことから雲上へ舞い上がり、雷の一家に出会う。ただそれだけの物語をひたすら駄洒落とナンセンス・ギャグで紡いでいくという、ある意味、技量だけでは太刀打ちできない噺なんですが、まぁ、みごとに演ってくれること。


大師匠・文枝を彷彿させる柔らかさと品格、それに、いい意味での古風さを持ち合わせた枝三郎さん。この人の噺を聴くためだけに大阪へ馳せ参じる価値は、あると思う。