スルメ日記

ライターのユッキィ吉田が「ゆるい日常」を綴っております。

もうひとりの住人

bluesnake2008-10-26


 昨日の桂吉弥独演会。この会には、吉弥師のほかに二名の噺家が出演した。上方の桂まん我、桂佐ん吉の両名。略歴を見ると、まん我が入門九年目、佐ん吉が七年目なので、東京でいえば二ツ目クラスか。ふたりとも明るく堂々たる高座だった。


 とりわけ、まん我さんに驚く。この人、失礼ながら、見た目がごく普通のニイちゃんだし、かん高いダミ声だし、落ち着かないそぶりを見せるし、最初は「あ…苦手なタイプかも」と引いてしまったんですが、マクラが始まると一転。おもしろい。


 吉弥師のあとを受けて登場するや、満員の客席へむかって「マスコミの力ってすごいですよねえ」と軽くジャブ。「でも、あのひと、急にうまくなったわけじゃないんですが」とさらりと落とす。『新撰組!』のころは普通の体型だったのに『ちりとてちん』でグーンと「膨張」してしまった吉弥師に対しては「いまや目のパッチリしたキム・ジョンイル」と鋭い指摘も。うまい。


 独演会の「露払い」というオノレのポジションをがっちりと把握した上で笑いを取り、徐々にお客を自分のフィールドへ引き込んでいく、なかなかの手腕だ。


 噺は「野ざらし」。リズムが良くて、陽気に軽やかに進んでいく。後半、主人公の男が妄想に耽り、釣り糸を垂れながら浮かれ端唄を歌うところは、姿かたちも決まっているし、何より歌が本物。かっちりと基礎ができた人だな、と感心した。後でプロフィールを見てみたら、趣味が笛、三味線。最近は義太夫も習っているそうだ。その上、故・桂吉朝が得意とした伝統の「影錦絵」を受け継ぎ、上演会も開いているらしい(一度見てみたいですね)本当に芸事の好きな人が落語家になった、そんな印象の俊英。


 来月も名古屋・大須演芸場独演会を開くそうなので、ぜひとも聴きに行きたい。